Jazz Standard — 1936
アンティル・ザ・リアル・シング・カムズ・アロング
| 作詞 | Sammy Cahn & Mann Holiner(サミー・カーン/マン・ホライナー) |
|---|---|
| 作曲 | Saul Chaplin & Alberta Nichols(ソール・チャップリン/アルバータ・ニコルズ) |
| 制作年 | 1931年作曲(1936年に大幅改訂) |
| 初演 | 1931年、レビュー『Rhapsody in Black』でEthel Watersが歌唱。1936年改訂版はAndy Kirk楽団(歌:Pha Terrell)による初録音 |
| キー | E♭(変ホ長調) |
| 拍子 | 4/4拍子・32小節・AABA形式 |
この曲には少し珍しい生い立ちがあります。もともとは1931年、作曲家アルバータ・ニコルズと作詞家マン・ホライナーによって「Till the Real Thing Comes Along」というタイトルで書かれ、ブロードウェイのレビュー『Rhapsody in Black』でエセル・ウォーターズが歌いました。しかし当時はさほど話題にならず、楽譜が出版されたのみにとどまっていました。転機が訪れたのは1936年のこと。デッカ・レコードの依頼で、作曲家ソール・チャップリンと作詞家サミー・カーンがこの曲を大幅に書き直します。旋律のほとんどと歌詞の大部分が刷新され、唯一残されたのは「本物の恋が訪れるまでは(until the real thing comes along)」という、タイトルにも表れる中心的なフレーズだけでした。改訂版は同年、アンディ・カーク楽団(歌:ファ・テレル)によって初めて録音され、これが人気の火付け役となりました。ちなみに5人目の作者としてクレジットされている「L・E・フリーマン」ことスリム・フリーマンは、もともとこの曲を耳にしたサックス奏者で、歌詞の一部を覚えていなかったため独自に作り替えて演奏していたところ、抜け目なくその替え歌に著作権を主張したという、少々ユニークな逸話も残っています。以来、ビリー・ホリデイ、ファッツ・ウォーラー、エラ・フィッツジェラルド、フランク・シナトラら数多くのアーティストに歌い継がれる定番曲となりました。
歌の情景・意味
相手のためならどんなことでもする——そんな献身的な愛を、少しユーモラスな誇張表現で歌った曲です。あなたのために働き、奉公人にでもなろう、乞食にでも盗人にでもなろう。それが本物の恋でないとしても、本物の恋が訪れるまでは、これで十分だ——そう歌う語り手の姿には、まだ確信を持てないながらも、精一杯の愛情を捧げようとする一途さがにじみます。「これが本物の愛でなくても構わない、とりあえず今はこれでいい」という、控えめでありながらどこか切実な献身の告白が、この曲の独特な魅力を生み出しています。
※掲載している英語歌詞は原詩の著作権に配慮し、内容を要約・再構成したオリジナルの言い換えです。正確な原詩は楽譜または正規音源でご確認ください。
キー:E♭(変ホ長調) 形式:AABA(32小節)
1930年代らしい素直で親しみやすい進行が特徴です。
A セクション(1〜8小節)
▶ ポイント:おなじみのツーファイブの流れを、落ち着いた足取りで2回繰り返します。歌詞が「あなたのために乞食にでも悪党にでもなろう」と誇張表現を積み重ねていく構成と、この規則正しい和音の反復がよく合っています。難しい転調はなく、当時のポピュラー・ソングらしい素直な作りを楽しむとよいでしょう。
B セクション(ブリッジ)
▶ ポイント:ブリッジもAセクションと近い性質の和音で構成されており、曲全体を通して一貫した親しみやすさが保たれています。歌詞でいえば「言葉を尽くしてもあなたに分かってもらえない」という、もどかしい気持ちを吐露する場面と重なります。最後は再びAセクションへと戻り、おなじみのタイトル・フレーズへと帰結します。
A Swingin' Affair
Dexter Gordon(デクスター・ゴードン)
1962年 / Blue Note
デクスター・ゴードンの豪快なテナーが、のびやかに歌う一枚です。
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Saul Chaplin ソール・チャップリン(1912–1997)
アメリカ・ニューヨーク生まれ。作曲家・編曲家・映画音楽プロデューサーとして活躍し、『ウエスト・サイド物語』『三人の恋人』などでアカデミー賞を複数回受賞しています。作詞のサミー・カーン(1913–1993)は、フランク・シナトラの多くのヒット曲を手がけたことで知られる名リリシストです。原曲(1931年版)の作曲を手がけたアルバータ・ニコルズと作詞のマン・ホライナーは、いずれもブロードウェイのレビュー音楽で活躍した作家コンビでした。