Jazz Standard — 1936
ゼアズ・ア・スモール・ホテル
| 作詞 | Lorenz Hart(ロレンツ・ハート) |
|---|---|
| 作曲 | Richard Rodgers(リチャード・ロジャース) |
| 制作年 | 1935年作曲(1936年発表) |
| 初演 | ミュージカル『On Your Toes』(1936年ブロードウェイ)でRay BolgerとDoris Carsonが歌唱 |
| キー | F(ヘ長調) |
| 拍子 | 4/4拍子・32小節・AABA形式 |
作曲家リチャード・ロジャースと作詞家ロレンツ・ハートの黄金コンビによって書かれた一曲です。もともとは1935年のミュージカル『Jumbo(ジャンボ)』のために作られましたが、この作品では採用されず、翌1936年のミュージカル『On Your Toes(オン・ユア・トウズ)』でようやく日の目を見ることになりました。劇中ではレイ・ボルジャーとドリス・カーソンが演じるダンサーの恋人同士が、日々の喧騒から逃れられる小さな隠れ家を夢見て歌います。作曲のきっかけとなったのは、ロジャースがニュージャージー州ストックトンにある実在の宿「ストックトン・イン」を訪れたときの体験だったと伝えられています。もっとも、作詞のハート自身はこのメロディを「くどい」と感じ、稽古中にはよく卑猥な替え歌を口ずさんでロジャースを困らせていたという逸話も残っています。1957年の映画『Pal Joey(パジャマ・ゲーム)』ではフランク・シナトラが歌ったことでも広く知られ、以降エラ・フィッツジェラルド、トニー・ベネット、チェット・ベイカーなど数え切れないほどの演奏家に取り上げられる定番曲となりました。
歌の情景・意味
日々の忙しさから抜け出して、恋人と二人きりで過ごせる小さな隠れ家を夢見る歌です。願い事の井戸がある小さなホテル、豪華な新婚スイートなどなくてもいい、たった一部屋あれば十分——そんなささやかな幸福への憧れが歌われます。ホテルの窓辺で、二人が寄り添いながら星を眺め、教会の鐘の音を聞く様子が描かれ、日常のわずらわしさから離れた、静かで満ち足りた時間への渇望が伝わってきます。派手さよりも、二人だけの慎ましい世界を求める気持ちが、この曲の温かみのある魅力を生み出しています。
※掲載している英語歌詞は原詩の著作権に配慮し、内容を要約・再構成したオリジナルの言い換えです。正確な原詩は楽譜または正規音源でご確認ください。
キー:F(ヘ長調) 形式:AABA(32小節)
ロジャース&ハート特有の、なめらかで歌心のあるツーファイブ進行が特徴です。
A セクション(1〜8小節)
▶ ポイント:出だしはヘ長調の主和音から始まり、おなじみのツーファイブの動きを繰り返します。歌詞の「小さなホテル」という控えめで温かな情景に、この落ち着いた和音の反復がよく寄り添っています。難しい転調はなく、まずはこの穏やかな行き来を味わうように聴くとよいでしょう。
B セクション(ブリッジ)
▶ ポイント:ブリッジではAm7からD7へと進む部分で、少し違う方角を向いた響きが現れます。歌詞でいえば「いつかこの世界も二人を認めてくれる」という、未来への願いを語る場面と重なります。その後は再びなじみのある進行を経て、最後のAセクションへとなめらかに戻っていきます。
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Richard Rodgers リチャード・ロジャース(1902–1979)
ニューヨーク生まれ。ロレンツ・ハートとのコンビで1920〜30年代のブロードウェイを席巻し、後にオスカー・ハマースタイン2世とのコンビでは『サウンド・オブ・ミュージック』『王様と私』など数々のミュージカルの金字塔を生み出しました。アカデミー賞・グラミー賞・トニー賞・ピュリッツァー賞・エミー賞すべてを制覇した稀有な作曲家としても知られます。作詞のロレンツ・ハート(1895–1943)は機知に富んだ言葉遊びと、ほろ苦い恋の機微を描く才能で知られる名リリシストでした。