Jazz Standard — 1953
サテン・ドール
| 作詞 | Johnny Mercer(ジョニー・マーサー)、Billy Strayhorn(ビリー・ストレイホーン) |
|---|---|
| 作曲 | Duke Ellington(デューク・エリントン)、Billy Strayhorn(ビリー・ストレイホーン) |
| 制作年 | 1953年(器楽曲として)、歌詞付きは1958年 |
| 初演 | デューク・エリントン楽団によるインストゥルメンタル版を1953年に録音・発表。歌詞はジョニー・マーサーが後年付加 |
| キー | C長調(標準) |
| 拍子 | 4/4拍子・32小節・AABA形式 |
「サテン・ドール」は、ジャズの王様と呼ばれるデューク・エリントンと、彼の右腕として活躍した作曲家・編曲家のビリー・ストレイホーンが共同で作り上げた曲です。1953年にインストゥルメンタル(器楽)曲として発表され、エリントン楽団の定番曲として長く親しまれてきました。その後、名作詞家ジョニー・マーサーが歌詞をつけたことで、歌ものとしても広まり、今日ではジャズのスタンダードとして欠かせない一曲となっています。
この曲の最大の特徴は、軽やかでスウィングするリズムと、洗練されたコード進行の組み合わせにあります。複雑に聞こえますが、実は「ツー・ファイブ・ワン」と呼ばれるジャズの基本的な和音の流れを見事に応用した、教科書的な名曲でもあります。ジャズを学ぶ演奏家が最初に覚える曲のひとつとしても知られており、シンプルな構造の中に深みを持たせるエリントンの作曲センスが光ります。タイトルの「サテン・ドール(サテン生地の人形)」は、絹のようにしなやかで気品のある女性を指しており、曲全体に漂う上品でエレガントな雰囲気とよく合っています。
歌の情景・意味
サテンのように滑らかで美しい女性——「サテン・ドール」——に出会った男性の、うっとりした気持ちを軽やかに歌った曲です。彼女はシガレットホルダーを持ち、品よく煙草をくゆらせる。どんな男性の誘いにも動じず、余裕たっぷりに微笑む。そんなクールで洗練された女性に、主人公は心を奪われています。歌詞全体に皮肉とユーモアが散りばめられており、「彼女は私を夢中にさせるけれど、彼女が私をただの獲物と思っているかどうかは用心しなければ」という、恋の駆け引きの妙味が軽妙なタッチで描かれています。重くなりすぎず、ちょっと気取った大人の恋愛観が心地よく漂う、まさにジャズらしい歌です。
※掲載している英語歌詞は原詩の著作権に配慮し、内容を要約・再構成したオリジナルの言い換えです。正確な原詩は楽譜または正規音源でご確認ください。
Verse A(Aセクション①)
Verse A(Aセクション②)
Bridge(Bブリッジ)
Verse A(最終Aセクション)
キー:C長調 形式:AABA(32小節)
「ツー・ファイブ・ワン」と呼ばれるジャズ最頻出の和音の動きを、半音ずつ下げながら繰り返す独創的な構造が特徴です。複雑に聞こえますが、規則的なパターンがあるので、慣れると「なるほど!」と感じていただけます。
A セクション①(1〜8小節)
▶ ポイント:「Dm7→G7」と「Em7→A7」はどちらも「ツー・ファイブ」の動きです。「ツー・ファイブ」とは2番目の和音から5番目の和音へ進む流れで、次の和音(ワン)へ向かう「呼び込み」の役割を持ちます。Dm7→G7はC長調への呼び込み、Em7→A7はD長調への呼び込みです。半音ずつ上がっていく感覚に注目してみてください。
A セクション①後半(9〜16小節)
▶ ポイント:Am7→D7もツー・ファイブの動きで、今度はG長調への呼び込みです。続くAbm7→Db7は、C長調から遠く離れた♭(フラット)系の和音で、まるで急に曲が別の方向へ走り出すような驚きがあります。しかしその後、Cmaj7で予想外にスムーズにC長調に着地する——この仕掛けがエリントン・サウンドの粋なところです。
B セクション(ブリッジ、17〜24小節)
▶ ポイント:ブリッジもAセクションと同じ「ツー・ファイブの繰り返し」という構造です。Gm7→C7はF長調への呼び込み、Am7→D7はG長調への呼び込み。Aセクションより少し低い音域の和音が並ぶため、全体のトーンが落ち着いた雰囲気になります。「彼女はなかなかの手者だから、私も冷静に…」という歌詞の、計算高さが漂う場面と見事に合っています。
A セクション③(最終、25〜32小節)
▶ ポイント:最終セクションもAセクション①と同じ流れで締めくくられます。最後のAbm7→Db7という遠い調の和音からCへの着地は、毎回聴いても「うまいな」と感じさせる名手の仕掛け。軽やかなリズムの中にこれだけの和声的工夫が詰まっているのが、この曲が長く演奏され続ける理由のひとつです。
The Great American Songbook
Carmen McRae(カーメン・マクレエ)
1972年 / Atlantic
カーメン・マクレエがライヴで聴かせる、アメリカン・スタンダード集。語りかけるような歌が魅力です。
Ella & Duke at the Cote d'Azur
Ella Fitzgerald(エラ・フィッツジェラルド)
1967年 / Verve
南フランスで行われた、エラとエリントン楽団の共演ライヴ。華やかな演奏が聴けます。
The Best of Duke Ellington
Duke Ellington(デューク・エリントン)
編集盤
デューク・エリントンの代表曲を集めた一枚。楽団の洗練された響きが楽しめます。
Nights of Ballads & Blues
McCoy Tyner(マッコイ・タイナー)
1963年 / Impulse!
マッコイ・タイナーが、バラードとブルースを中心に聴かせるピアノ・トリオ作品です。
Organ Grinder Swing
Jimmy Smith(ジミー・スミス)
1965年 / Verve
ジミー・スミスのハモンド・オルガンが躍動する、ヴァーヴ期の人気作です。
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Duke Ellington デューク・エリントン(1899–1974)
ワシントンD.C.生まれのピアニスト・作曲家・バンドリーダー。本名はエドワード・ケネディ・エリントン。幼い頃から「デューク(公爵)」というあだ名で呼ばれるほど気品ある立ち振る舞いで知られ、その名は生涯にわたってジャズの世界に君臨しました。1920年代から50年以上にわたってビッグバンドを率い、「キャラバン」「ムード・インディゴ」「イン・ア・センチメンタル・ムード」「テイク・ザ・A・トレイン」など、ジャズの歴史に刻まれる名曲を次々と生み出しました。エリントンの音楽は単なるダンス・バンドの枠を超え、クラシック音楽に匹敵する構成力と独自の音色感覚を持つ「アメリカ音楽の最高峰」として世界に認められています。グラミー賞生涯功労賞、大統領自由勲章など多くの栄誉を受け、1999年には生誕100周年を記念した切手がアメリカで発行されました。右腕のビリー・ストレイホーンとの長年にわたる共同作業もジャズ史に残る偉大なパートナーシップです。