Jazz Standard — 1932
ナイト・アンド・デイ
| 作詞・作曲 | Cole Porter(コール・ポーター) |
|---|---|
| 制作年 | 1932年 |
| 初演 | 1932年、ブロードウェイ・ミュージカル「ゲイ・ディヴォーシー」にてフレッド・アステア歌唱。1934年の映画版でも同じくアステアが披露。 |
| キー | E♭ major(変ホ長調) |
| 拍子 | 4/4拍子 48小節・拡張AABA形式 |
「ナイト・アンド・デイ」は、コール・ポーターが1932年にブロードウェイ・ミュージカル「ゲイ・ディヴォーシー」のために書き下ろした傑作です。フレッド・アステアのために特別に書かれたこの曲は、初演からたちまちヒットを記録し、翌年の映画化でさらに広く知られるようになりました。ポーターの作品の中でも際立った特徴は、冒頭のヴァースで「ボン、ボン、ボン」と繰り返される単音の連打(オスティナート)です。これはモロッコを旅した際に耳にしたイスラムの礼拝の呼びかけ(アザーン)に着想を得たとも、雨粒が屋根を叩く音を表しているとも言われます。その執拗なまでに繰り返す一音が「昼も夜も、あなたのことが頭から離れない」という歌詞の強迫観念的な愛の感情を音で描き出しており、ポーターの作曲技法の巧みさを如実に示しています。フランク・シナトラは自身の代表曲のひとつとして幾度も録音し、ブラジルの巨匠フランク・シナトラはボサノヴァ風にアレンジした版も残しています。
歌の情景・意味
昼も夜も、雨音のように、時計の針のように——止まることなく愛する人のことを思い続ける、一途で強烈な恋心を歌った曲です。「夜も昼も、あなただけを思う。この切なる思いはどこから来るのか。ただあなたのそばにいて、あなたのものになりたい——それだけが望みなのに」という内容で、ポーターらしい洗練された言葉の中に、執念にも似た愛の深さが滲んでいます。「Night and Day(夜と昼)」というタイトルは、時間のすべて・存在のすべてを意味する言葉であり、「どんなときも、ひとときも忘れることなく、あなたを愛している」というメッセージを凝縮した表現です。冒頭の単音の繰り返しが「頭から離れない」という感覚を音楽で体現していることに気づくと、この曲の精巧な構造がより鮮やかに見えてきます。
※掲載している英語歌詞は原詩の著作権に配慮し、内容を要約・再構成したオリジナルの言い換えです。正確な原詩は楽譜または正規音源でご確認ください。
Verse(前置き)
Like the beat, beat, beat of the tom-tom
太鼓のビート、ビート、ビートのように、
When the jungle shadows fall,
ジャングルに夕闇が訪れるとき、
Like the tick, tick, tock of the stately clock
荘重な時計のチク、タク、タクのように、
As it stands against the wall,
壁に寄りかかって立ちながら、
Like the drip, drip, drip of the raindrops
雨粒のポタ、ポタ、ポタのように、
When the summer shower is through,
夏のにわか雨が上がったあと、
So a voice within me keeps repeating, you, you, you.
わたしの中の声が繰り返し呼びかける——あなた、あなた、あなた、と。
Chorus(コーラス)
Night and day, you are the one,
昼も夜も、あなただけが、
Only you beneath the moon and under the sun.
月の下でも、太陽の下でも、ただあなただけが。
Whether near to me or far,
あなたがそばにいようと、遠くにいようと、
It's no matter, darling, where you are,
どこにいたって関係ない、ダーリン。
I think of you, night and day.
わたしはあなたを思い続ける、昼も夜も。
Day and night, why is it so
昼も夜も、なぜなのだろう、
That this longing for you follows wherever I go?
あなたへのこの切なる思いが、どこへ行っても後をついてくるのは?
In the roaring traffic's boom,
轟く車の騒音の中でも、
In the silence of my lonely room,
わたしのひとりぼっちの部屋の静寂の中でも、
I think of you, night and day.
わたしはあなたを思い続ける、昼も夜も。
Night and day, under the hide of me
昼も夜も、わたしの皮膚の下で
There's an oh such a hungry yearning burning inside of me.
ああ、なんとも飢えた焦がれる思いが、内側で燃えている。
And its torment won't be through
そしてその苦しみは終わらないだろう、
'Til you let me spend my life making love to you,
あなたがわたしに、あなたを愛しながら一生を過ごさせてくれるまでは。
Day and night, night and day.
昼も夜も、夜も昼も。
キー:E♭ major(変ホ長調) 形式:拡張AABA(48小節)
この曲最大の特徴は、冒頭のヴァースで延々と繰り返される「B♭」の単音です。これは「オスティナート(執拗音)」と呼ばれる手法で、「昼も夜も頭から離れない」という歌詞の強迫観念的な感情を音楽で体現しています。コーラスに入ると一転、豊かな和声が広がります。
Verse(ヴァース・1〜8小節)
▶ ポイント:メロディは「ボン、ボン、ボン」とほぼ同じ音(B♭)を繰り返しながら、コードはB♭7が長々と続きます。この「なかなか解決しない緊張感」こそが、愛の執念という感情を音で表したポーターの天才的な仕掛けです。8小節目でようやくE♭に解決したとき、聴き手は思わず安堵の息をつきます。
A セクション(コーラス・9〜16小節)
▶ ポイント:コーラス冒頭でE♭maj7(主和音)に落ち着いたと思ったら、すぐにD♭maj7(半音下の長七の和音)が現れます。この半音関係の和音の並びが、曲全体に漂う「甘い不安定感」の源です。ジャズ奏者が即興の中でこの部分をどう彩るかは、演奏者それぞれの個性が出る聴きどころです。
B セクション(ブリッジ・25〜32小節)
▶ ポイント:ブリッジではFm7→B♭7→E♭というツー・ファイブ・ワンの進行が繰り返されます。曲の他の部分と比べてシンプルな和声進行ですが、だからこそメロディの歌声が前に出て、「わたしの皮膚の下で焦がれる思いが燃えている」という感情的なクライマックスの言葉が心に刺さります。
A Swingin' Affair!
Frank Sinatra(フランク・シナトラ)
1957年 / Capitol
ネルソン・リドルの編曲で、シナトラが勢いよくスイングしたキャピトル期の代表作。テンポのよい歌いぶりが爽快です。
Robin and the 7 Hoods
Frank Sinatra & Bing Crosby(フランク・シナトラ&ビング・クロスビー)
1964年 / Reprise
シナトラ一家が出演した同名映画のサウンドトラック。豪華な顔ぶれの掛け合いが楽しめます。
Night and Day
Charlie Parker(チャーリー・パーカー)
編集盤
チャーリー・パーカーの鋭いアルト・サックスで聴く「ナイト・アンド・デイ」。ビバップの熱気が伝わります。
Everybody Digs Bill Evans
Bill Evans(ビル・エヴァンス)
1958年 / Riverside
ビル・エヴァンスの初期の代表作。繊細なタッチと内省的なハーモニーが、のちのスタイルを予感させます。
Brasil '66
Sergio Mendes & Brasil '66(セルジオ・メンデス&ブラジル'66)
1966年 / A&M
ボサノヴァをポップに親しみやすく聴かせたセルジオ・メンデスの人気作。軽快でおしゃれなサウンドです。
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Cole Porter コール・ポーター(1891–1964)
インディアナ州ペルー生まれのコール・ポーターは、機知と洗練に満ちた歌詞と、独創的な和声感覚を持つ作曲・作詞の両面での天才です。ハーバード大学で法律を学んだ後に音楽に転向し、ヨーロッパ各地での華やかな生活を経てブロードウェイで花開きました。「ナイト・アンド・デイ」のほかにも「アイ・ラヴ・ユー」「エヴリ・タイム・ウィー・セイ・グッバイ」「アイヴ・ガット・ユー・アンダー・マイ・スキン」「ジャスト・ワン・オブ・ゾーズ・シングス」など、ジャズ・スタンダードの宝庫ともいえる数々の名曲を書き残しました。1937年の落馬事故で両脚を骨折して以降、生涯を通じて痛みと闘い続けましたが、その苦しみを微塵も感じさせない洒脱(しゃだつ)な作風は最後まで変わりませんでした。ガーシュウィン、バーリン、カーンと並び、アメリカン・ポップスの黄金時代を支えた最重要人物のひとりです。