Jazz Standard — 1937
マイ・ファニー・ヴァレンタイン
| 作詞 | Lorenz Hart(ロレンツ・ハート) |
|---|---|
| 作曲 | Richard Rodgers(リチャード・ロジャース) |
| 制作年 | 1937年 |
| 初演 | ブロードウェイ・ミュージカル「ベイブス・イン・アームズ」(1937年)にてミッツィ・グリーン歌唱 |
| キー | C minor(ハ短調) |
| 拍子 | 3/4拍子(ワルツ)または4/4拍子で演奏されることも多い 32小節・AABA形式 |
「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」は、1937年のブロードウェイ・ミュージカル「ベイブス・イン・アームズ」のために、リチャード・ロジャースが作曲し、ロレンツ・ハートが作詞した珠玉のバラードです。初演時から高い評価を受け、やがてジャズの世界に取り込まれると、数え切れないほどのミュージシャンに演奏・録音され、ジャズ・スタンダードの中でも最も録音数の多い曲のひとつとなりました。チェット・ベイカーが1954年に録音した版はとりわけ有名で、その静謐(せいひつ)で内省的なトランペットの音色と歌声は、今も世界中の多くのリスナーを魅了し続けています。曲名の「Valentine(ヴァレンタイン)」は愛する人の名前であり、「Funny(ファニー)」は「おかしな・変わった」という意味。完璧とは言えない愛する人を、それでもすべて愛しているという歌詞の内容が、多くの人の心に深く響く理由のひとつでしょう。
歌の情景・意味
歌い手は、愛するヴァレンタインという名の人物に語りかけます。「あなたの顔は絵にかいたようには美しくないし、姿も図にはならない。笑い顔はギリシャ彫刻のようとは言えない。口を開けば、言葉はあなたを賢くは見せない」——そんなふうにやや辛辣(しんらつ)な言葉を連ねながらも、歌い手の気持ちは最後に一転します。「でも、あなたはわたしのお気に入り。変わらないでいて」と。完璧ではない、むしろ欠点だらけかもしれないその人を、ありのままに愛している。洗練や美しさではなく、ただその存在そのものを大切に思う気持ち——この曲の真髄は、そこにあります。ジャズ・ミュージシャンたちが何度もこの曲を取り上げ続けるのは、そのシンプルで普遍的な愛の形が、言葉や時代を超えて伝わるからかもしれません。
※掲載している英語歌詞は原詩の著作権に配慮し、内容を要約・再構成したオリジナルの言い換えです。正確な原詩は楽譜または正規音源でご確認ください。
Behold the way our fine-feathered friend his virtue doth parade,
(ヴァース)羽も美しいわが友よ、その美徳をこれ見よがしに見せびらかす、
Thou knowest not, my dim-witted friend, the picture thou hast made,
わからないのか、鈍いわが友よ、自分がどんな姿に見えるかを。
Thy vacant brow and thy tousled hair conceal thy good intent,
うつろな瞳と乱れた髪は、その良き心根を隠してしまっている。
Thou noble, upright, truthful, sincere and slightly dopey gent.
高潔で、誠実で、正直で、真摯(しんし)で、ほんの少しぼんやりした人よ。
My funny Valentine, sweet comic Valentine,
わたしのおかしなヴァレンタイン、愛しいひょうきんなヴァレンタイン、
You make me smile with my heart.
あなたはわたしの心を微笑ませてくれる。
Your looks are laughable, unphotographable,
あなたの顔は笑えるほどで、写真映りも悪い。
Yet you're my favourite work of art.
それでもあなたは、わたしの大好きな芸術作品。
Is your figure less than Greek?
あなたの体型はギリシャ彫刻のようとは言えない?
Is your mouth a little weak?
あなたの口元は少し頼りなく見える?
When you open it to speak, are you smart?
口を開いたとき、あなたは賢く見える?
But don't change a hair for me, not if you care for me,
でも、わたしのために何ひとつ変えないでいて。もしわたしを大切に思うなら、
Stay, little Valentine, stay!
そのままでいて、愛しいヴァレンタイン、そのままで!
Each day is Valentine's Day.
毎日がヴァレンタイン・デー。
キー:C minor(ハ短調) 形式:AABA(32小節)
ベースラインが半音階的に下降してゆく美しい冒頭が最大の特徴です。短調のもの悲しさの中にも、温かみと揺らぎのある和声が、この曲の表情の豊かさを作り出しています。
A セクション(1〜8小節)
▶ ポイント:最初の4小節は「Cm → Cm(maj7) → Cm7 → Cm6」と、ベース音がシ♭→シ♮→シ♭→ラと半音ずつ動く下降ラインが聴きどころです。これは「クロマティック・ベース・ライン」と呼ばれ、曲に切なくも美しい色合いを与えます。慣れてきたら、このベースラインを声や指で追ってみると、曲の構造がよくわかります。
B セクション(ブリッジ・17〜24小節)
▶ ポイント:ブリッジではハ短調の「平行長調」であるE♭長調(変ホ長調)に転じます。短調から明るい長調へとがらりと空気が変わるこの部分は、「それでもあなたはわたしのお気に入り」という歌詞の感情と見事に呼応します。最後のDm7♭5→G7でふたたびCマイナーへ引き戻される解決感も絶品です。
Sinatra at the Sands
Frank Sinatra(フランク・シナトラ)
1966年 / Reprise
カウント・ベイシー楽団と共演した、ラスベガスでのライヴ名盤。円熟したシナトラの歌と語りが楽しめます。
My Funny Valentine: The Best of Chet Baker
Chet Baker(チェット・ベイカー)
編集盤
チェット・ベイカーの代表的な名唱・名演を集めたベスト盤です。
My Funny Valentine: In Concert
Miles Davis(マイルス・デイヴィス)
1964年録音 / Columbia
リンカーン・センターでのライヴ。マイルス・クインテットによる、静かで美しいバラードの名演です。
My Funny Valentine: Live 1955–59
Anita O'Day(アニタ・オデイ)
ライヴ録音
アニタ・オデイの1950年代のライヴ録音集。小気味よいスキャットが冴えます。
Undercurrent
Bill Evans & Jim Hall(ビル・エヴァンス&ジム・ホール)
1962年 / United Artists
ピアノとギターだけで綴られたデュオの名盤。二人の静かで緊張感のある対話が美しい一枚です。
The Great Kai & J.J.
J.J. Johnson & Kai Winding(J.J.ジョンソン&カイ・ウィンディング)
1960年 / Impulse!
2本のトロンボーンが息の合った掛け合いを聴かせる、J&Kコンビの人気作です。
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Richard Rodgers & Lorenz Hart リチャード・ロジャース & ロレンツ・ハート
リチャード・ロジャース(1902–1979)はニューヨーク生まれの作曲家で、ブロードウェイ・ミュージカルの黄金時代を築いた巨匠です。まずロレンツ・ハートと、のちにオスカー・ハマースタイン二世とのコンビでヒット曲を量産し、ピューリッツァー賞・トニー賞・アカデミー賞・グラミー賞・エミー賞のすべてを受賞した数少ない芸術家のひとりです。一方、ロレンツ・ハート(1895–1943)は、機知に富んだ言葉遊びと複雑な韻律(いんりつ)を駆使する天才作詞家として知られ、アメリカン・ポップス史上最高の作詞家のひとりと評価されています。私生活では孤独と酒に苦しみ、48歳で早世しましたが、その言葉の魔法は「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」をはじめ数多くの名曲として永遠に生き続けています。