Jazz Standard — 1940
ハウ・ハイ・ザ・ムーン
| 作詞 | Nancy Hamilton(ナンシー・ハミルトン) |
|---|---|
| 作曲 | Morgan Lewis(モーガン・ルイス) |
| 制作年 | 1940年 |
| 初演 | ブロードウェイ・レビュー「Two for the Show(トゥー・フォー・ザ・ショー)」(1940年)にてアルフレッド・ドレイクとフランシス・コンロイが歌唱 |
| キー | G長調(標準) |
| 拍子 | 4/4拍子・32小節・AABA形式 |
「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」は、1940年のブロードウェイ・レビュー「トゥー・フォー・ザ・ショー」のために作られた曲です。作曲はモーガン・ルイス、作詞はナンシー・ハミルトン。ミュージカルの舞台では比較的地味な扱いを受けていたこの曲ですが、ジャズの演奏家たちの間で急速に人気を集め、1940年代のビバップ革命の核心的なレパートリーとなりました。
この曲がビバップ演奏家に愛された最大の理由は、その独特のコード進行にあります。32小節の中に次々と異なるキーが登場し、半音階的な和音の動きが豊富なため、即興演奏の素材として非常に豊かです。チャーリー・パーカーはこの曲のコード進行を素材に、1945年に「オーニソロジー(Ornithology)」という別のメロディを乗せた新曲を生み出しました——ジャズ界ではこれを「コントラファクト」と呼び、既存の和音進行に新たなメロディを被せる手法です。エラ・フィッツジェラルドが1947年に録音した名唱はグラミー殿堂入りを果たしており、歌ものとしても不朽の名作となっています。
歌の情景・意味
愛する人と離れ、その人を想いながら夜空を見上げる歌です。「月はどれほど高いところにあるのだろう? 空はどれほど高いのだろう?」——この問いかけは、愛する人がいなくては世界の深さも高さも測れないという、愛の絶対性を表しています。どこかの空の下、あなたがいる。その事実だけで、月の高さも、空の広さも、意味を持ちはじめる。シンプルで詩的な歌詞は、余白が多いぶん聴く人それぞれの感情を映す鏡となります。ビバップの演奏家たちがこの曲の「言葉」より「和音の構造」に惚れ込んだという事実も、この曲の奥行きを示しています。歌としても、器楽曲としても、それぞれ別の顔で輝く稀な作品です。
※掲載している英語歌詞は原詩の著作権に配慮し、内容を要約・再構成したオリジナルの言い換えです。正確な原詩は楽譜または正規音源でご確認ください。
Verse A(Aセクション①)
Verse A(Aセクション②)
Bridge(Bブリッジ)
Verse A(最終Aセクション)
キー:G長調(標準) 形式:AABA(32小節)
G長調を中心に置きながら、次々と異なるキーのツー・ファイブが連続して登場します。「ツー・ファイブが6つの調にまたがる」とも言われ、ビバップ演奏家が半音階的に即興するための絶好の素材となっています。パーカーが「オーニソロジー」として転用したのも、この和声の豊かさゆえです。
A セクション①(1〜8小節)— G長調中心
▶ ポイント:Gmaj7(ト長調)からGm7(ト短調)→C7(ハ・セブンス)→Fmaj7(ヘ長調)という流れは、同じ「ソ」の根音(ルート)を持つ長調→短調への変化で始まります。長調から短調へ一瞬で変わる動き——これが「どこかで音楽が流れている、かすかなメロディ」という歌詞の遠くをさまようような感覚と見事に一致しています。Fm7→B♭7はE♭長調へのツー・ファイブです。
A セクション①後半(9〜16小節)— さらなる転調の連鎖
▶ ポイント:E♭maj7(ミ♭長調)でいったん落ち着き、Am7→D7(G長調へのツー・ファイブ)でGmaj7に着地します。G長調のホーム・コードが現れるのはここが初めてで、「ようやく帰ってきた」という安堵感があります。しかし再びAm7→D7と繰り返され、次のAセクションへと続きます。この「なかなか落ち着かない」感覚が、愛する人を待ち続ける主人公の心情と重なります。
B セクション(ブリッジ、17〜24小節)— A♭長調周辺
▶ ポイント:ブリッジはA♭長調(ラ♭長調)へ移動します。G長調から見れば半音上の遠い調で、まるでより高い場所へ上っていくような印象を受けます。「月はいかに高く」という歌詞が来るタイミングで、和音も一段高い場所へ移動する——作曲者の意図が感じられます。最後のAm7→D7でG長調への帰還を準備します。
A セクション③(最終、25〜32小節)— G長調への着地
▶ ポイント:最初と同じ流れで始まり、最終的にD7→Gで終止します。「月はどれほど高いところに!」という問いかけで幕を閉じるこの曲は、答えの出ない疑問符のまま終わります。和音はGに着地しますが、歌詞の「問い」は宙に浮いたまま——この余韻こそがこの曲を何度も繰り返し聴かせる力の源です。
Mack the Knife: Ella in Berlin
Ella Fitzgerald(エラ・フィッツジェラルド)
1960年 / Verve
歌詞を忘れたエラが即興で歌い切った「マック・ザ・ナイフ」で有名な、ベルリンでのライヴ名盤です。
How High the Moon: The Definitive Collection
Les Paul & Mary Ford(レス・ポール&メリー・フォード)
編集盤
多重録音の先駆者レス・ポールと妻メリー・フォードのヒット曲集。表題曲は全米1位に輝きました。
Pyramid
The Modern Jazz Quartet(モダン・ジャズ・カルテット)
1960年 / Atlantic
室内楽のように端正なMJQの作品。ブルースとクラシックの香りが溶け合う、気品ある演奏です。
Sonny Rollins and the Contemporary Leaders
Sonny Rollins(ソニー・ロリンズ)
1958年 / Contemporary
西海岸の名手たちと組んだロリンズの作品。くつろいだ雰囲気の中で、豪快なテナーが歌います。
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Morgan Lewis モーガン・ルイス(1906–1968)
ニューヨーク生まれのアメリカ人作曲家・ピアニスト。コロンビア大学で音楽を学んだ後、ブロードウェイの世界でキャリアを積みました。「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」は彼の代表作であり、ほぼこの一曲によって音楽史に名を留めている稀なケースといえます。長年の作詞パートナーであるナンシー・ハミルトンとのコンビで、「トゥー・フォー・ザ・ショー」のほかにも複数のブロードウェイ作品を手がけました。当初はそれほど注目されなかったこの曲が、ビバップ革命を経てジャズの金字塔となったことは、ルイス自身も予期していなかったはずです。チャーリー・パーカーをはじめとする演奏家たちがこの曲の和声的可能性を掘り起こしたことで、一地方の劇場作品が世界的なスタンダードへと生まれ変わりました。