Jazz Standard — 1930
ボディ・アンド・ソウル
| 作詞 | Edward Heyman, Robert Sour, Frank Eyton(エドワード・ヘイマン、ロバート・サワー、フランク・イートン) |
|---|---|
| 作曲 | Johnny Green(ジョニー・グリーン) |
| 制作年 | 1930年 |
| 初演 | 1930年、ブロードウェイのレビュー「Three's a Crowd」にてリビー・ホルマン歌唱 |
| キー | D♭ major(変ニ長調)/ブリッジはD major(ニ長調) |
| 拍子 | 4/4拍子 32小節・AABA形式 |
「ボディ・アンド・ソウル」は1930年にジョニー・グリーンが作曲し、ブロードウェイのショーで初めて世に出たラブ・バラードです。発表直後からヒットを重ね、ルイ・アームストロングやベニー・グッドマンら当代一流のミュージシャンたちが競うように録音しました。しかし何といっても、この曲をジャズ史に刻みつけた最大の功績は、テナー・サックスの巨人コールマン・ホーキンスによる1939年の録音にあります。その演奏はコードに基づく即興演奏の手本として後世のあらゆるジャズマンに影響を与え、今日に至るまでジャズ・インプロヴィゼーションの教科書的名演として語り継がれています。また、ジョン・コルトレーンが1960年に残した版は、ホーキンス致敬(オマージュ)でありながら全く異なる現代的アプローチを示しており、この曲が持つ懐の深さを如実に物語っています。半音階を多用した豊かな和声は、演奏する者に無限のインスピレーションを与え続けています。
歌の情景・意味
愛する人に去られた歌い手が、その深い悲しみと止みがたい愛情を切々と訴える歌です。「わたしの心はあなたのもの、あなたがいないと生きていられない。体も魂も、すべてあなたのものなのに、なぜあなたは行ってしまうのか」——そんな絶望的なまでの一途(いちず)さが、この曲の骨格をなしています。「Body and Soul(肉体と魂)」という言葉は、自分のすべてを相手に捧げるという意味の英語の慣用表現。恋人に全存在をゆだねた人間の純粋な苦しみが、ため息のように美しいメロディにのって流れ出します。ジャズ・ミュージシャンたちがこの曲を愛してやまないのは、そのメロディの美しさと、深い和声が生み出す感情表現の幅の広さゆえでしょう。
※掲載している英語歌詞は原詩の著作権に配慮し、内容を要約・再構成したオリジナルの言い換えです。正確な原詩は楽譜または正規音源でご確認ください。
My heart is sad and lonely,
わたしの心は悲しく、孤独で、
For you I sigh, for you, dear, only.
あなたのためだけに、ため息をつく。
Why haven't you seen it?
なぜ気づいてくれないの?
I'm all for you, body and soul!
わたしはすべてあなたのもの、体も魂も!
I spend my days in longing
わたしは毎日、焦がれながら過ごしている。
And wond'ring why it's me you're wronging.
あなたがなぜわたしを傷つけるのか、不思議に思いながら。
I tell you I mean it,
これは本気で言っているの。
I'm all for you, body and soul!
わたしはすべてあなたのもの、体も魂も!
I can't believe it, it's hard to conceive it,
信じられない、理解しがたい、
That you'd turn away romance.
あなたがこの恋を拒むなんて。
Are you pretending, it looks like the ending,
あなたはふりをしているの? まるで終わりのように見える。
Unless I could have one more chance to prove, dear.
もう一度だけ証明するチャンスをもらえないなら。
My life a wreck you're making,
あなたはわたしの人生を台なしにしている。
You know I'm yours for just the taking.
わたしがあなたのものだと、あなたはわかっているはずなのに。
I'd gladly surrender
わたしは喜んでその手に身をゆだねる、
My all for your tender care.
あなたの優しいぬくもりのために、すべてを。
I'm all for you, body and soul!
わたしはすべてあなたのもの、体も魂も!
キー:D♭ major(変ニ長調) 形式:AABA(32小節)
♭(フラット)が五つ並ぶD♭長調を基本としながら、ブリッジでは半音上のD長調(♯二つ)に大胆に転調します。この遠隔転調こそがこの曲最大の魅力であり、演奏者の腕の見せどころです。
A セクション(1〜8小節)
▶ ポイント:D♭メジャーという黒鍵の多いキーが独特の重厚感を生み出しています。Aセクション後半ではG♭maj7からG♭m6(短調化)への動きが現れ、曲に陰影と緊張感を与えます。ホーキンスの演奏ではこの部分を自由自在に彩り直すアドリブが聴けます。
B セクション(ブリッジ・17〜24小節)
▶ ポイント:ここがこの曲最大の聴きどころ。D♭(変ニ長調)から半音上のD(ニ長調)へと転調します。これは「遠隔転調」と呼ばれる大胆な手法で、まるで別の世界へ迷い込んだような感覚を生み出します。最後のE♭m7→A♭7でふたたびD♭に戻る解決感が鮮やかです。
Body & Soul: Essential Cuts 1939–1949
Coleman Hawkins(コールマン・ホーキンス)
1939〜49年録音・編集盤
ホーキンスによる1939年の歴史的名演を含む一枚。テナーサックスの豊かな音色が堪能できます。
Jazz Giant
Bud Powell(バド・パウエル)
1950年録音 / Verve
モダン・ジャズ・ピアノの祖、バド・パウエル全盛期の代表作。鋭く速いフレーズと、バラードでの深い表現の両方が味わえます。
Body and Soul
Sarah Vaughan(サラ・ヴォーン)
編集盤
豊かな声量と幅広い音域を誇るサラ・ヴォーンの歌唱を収めた一枚。ゆったりとしたバラードで、その声の美しさが際立ちます。
Mark Murphy Sings
Mark Murphy(マーク・マーフィー)
1975年 / Muse
ジャズ・ヴォーカルの自由な歌い方を追求したマーク・マーフィーの一枚。言葉を楽器のように操る、個性的なフレージングが魅力です。
Body and Soul
Billie Holiday(ビリー・ホリデイ)
1957年 / Verve
晩年のホリデイが、ベン・ウェブスターらの名手と録音したアルバム。くつろいだ伴奏の中で、味わいを増した歌声がしみじみと響きます。
名盤・名演のリンクはAmazonアソシエイト・リンクです。
Amazonのアソシエイトとして、ジャズ・スタンダード事典は適格販売により収入を得ています。
Johnny Green ジョニー・グリーン(1908–1989)
ニューヨーク生まれのジョニー・グリーンは、ハーバード大学卒業という異色の経歴を持つ作曲家・指揮者・編曲家です。在学中からピアノの腕を磨き、卒業後まもなくポップス界でキャリアを築き始めました。「ボディ・アンド・ソウル」は彼が22歳のときに書いた作品であり、まさに天才の早熟な輝きを示しています。その後ハリウッドに渡り、MGMスタジオの音楽部長として長年活躍。映画音楽の分野でアカデミー賞を4度受賞するなど、ジャズとクラシック・ポップスの橋渡し役として20世紀アメリカ音楽史に大きな足跡を残しました。「ボディ・アンド・ソウル」一曲が彼の名をジャズ史に永遠に刻んだとも言えます。