Jazz Standard — 1941
ブルース・イン・ザ・ナイト
| 作詞 | Johnny Mercer(ジョニー・マーサー) |
|---|---|
| 作曲 | Harold Arlen(ハロルド・アーレン) |
| 制作年 | 1941年 |
| 初演 | 映画『ブルース・イン・ザ・ナイト』(原題:Hot Nocturne)の牢獄シーンで歌手ウィリアム・ギレスピーが独唱。同年アーティ・ショー楽団(ヴォーカル:「ホット・リップス」ペイジ)が初録音してヒット |
| キー | E♭長調(変ホ長調)が標準 |
| 拍子 | 4/4拍子・変形ブルース形式(各セクション12小節ベース・全体で約48小節) |
「ブルース・イン・ザ・ナイト」は1941年、ハロルド・アーレンとジョニー・マーサーのコンビが映画のために書き下ろした傑作ブルース・ナンバーです。もともと映画の仮題は「ホット・ノクターン」でしたが、この曲の完成後にあまりの出来の良さから映画のタイトル自体が「ブルース・イン・ザ・ナイト」に改題されたほどです。作曲のエピソードも印象的で、アーレンはほぼ2日かけてメロディーを書き上げ、マーサーが歌詞を仕上げると、ふたりはすぐさまマーガレット・ホワイティングの自宅へ車を走らせ、ミッキー・ルーニー、ジュディ・ガーランドらを前に即席披露したといいます。翌年のアカデミー賞主題歌賞にノミネートされ、受賞こそ逃しましたが作曲家ジェローム・カーンが「本来この曲が受賞すべきだった」と語ったほど高く評価されました。通常のジャズ・スタンダードが32小節のAABA形式をとるのとは異なり、この曲は本物のブルースの12小節進行を複数のセクションにわたって連結した独特の「テープワーム(長虫)構造」を持ちます。
歌の情景・意味
「お母さんが子供のころ教えてくれた——恋人なんて信用するもんじゃない、甘い言葉でたらしこんでおいて、最後はひとりで夜のブルースを歌わせるだけだ」。旅から旅へ放浪する語り手が、夜汽車の汽笛と雨音の中で母の言葉を思い出しながら、裏切られた恋の痛みをかみしめます。歌詞には南部訛りの英語("My mama done tol' me")が使われており、ジョニー・マーサー自身のジョージア州生まれの南部的感性がにじんでいます。夜の嵐、走る列車の車輪の音、鳴り響くレールの響き——情景描写が鮮やかで、聴く者は暗い車窓から流れる夜景を見るような錯覚に陥ります。失恋の哀しみを嘆くのではなく、「わかってたけどね」という苦い諦めと自嘲を込めた大人のブルースです。
※掲載している英語歌詞は原詩の著作権に配慮し、内容を要約・再構成したオリジナルの言い換えです。正確な原詩は楽譜または正規音源でご確認ください。
第1コーラス — 母の教え
第2コーラス — 夜汽車の情景
第3コーラス — 夜と風のなげき
第4コーラス — 結び
キー:E♭長調 形式:変形ブルース構造(各部12小節ベース)
この曲は通常のジャズ・スタンダード(32小節AABA)とは根本的に異なる設計です。アーレンは本物のブルース音楽の「12小節ブルース進行」を複数つなぎ合わせた「テープワーム構造」と呼ばれる独自の形式を採用しました。各コーラスは基本的に「E♭7(トニック)→A♭7(サブドミナント)→B♭7(ドミナント)」という12小節ブルースの骨格をもとに、ジャズ的な和音を加えながら展開します。ここでは60代の方にもわかりやすいよう、第1コーラス(母の教え)を例に基本進行を示します。
第1コーラス・前半(1〜6小節)― トニックからサブドミナントへ
▶ ポイント:E♭7(Ⅰ7)が4小節続いた後、A♭7(Ⅳ7)へ動くのが12小節ブルースの最大の特徴です。「E♭7」はハ長調の「C7」に相当するトニック(主和音)で、「A♭7」はサブドミナント(下属和音)。両方とも「セブンス(7th)コード」という、ブルース特有のざらりとした渋みある音を持ちます。この独特の響きが「夜のブルース」の哀愁を生み出しています。
第1コーラス・後半(7〜12小節)― ドミナントを経て解決へ
▶ ポイント:後半では「Fm7→B♭7→E♭7」という「ツー・ファイブ・ワン」の動きが現れます。B♭7(Ⅴ7)はドミナント(属和音)で、ここに向かって音楽が緊張を高め、E♭7へ戻って解決する——この緊張と解放の繰り返しがブルースの醍醐味です。最後の「B♭7」は次のコーラスへの橋渡し(ターンアラウンド)として機能します。
第2コーラス — 汽車の情景(ブルース特有のコール&レスポンス的構造)
▶ ポイント:第2コーラスでは「Woo-ee!(ウーウー!)」という汽笛を模した叫び声が歌詞に登場します。この「呼び掛けと応答」の構造はアフリカ系アメリカ人の音楽伝統「コール&レスポンス」から来ており、ブルースの精神そのものです。コード進行は第1コーラスと似た骨格を持ちますが、テンポの流れの中でより自然なスウィング感が出てきます。ゆったりと体を揺らしながら聴いてみてください。
Big Maybelle Sings the Blues
Big Maybelle(ビッグ・メイベル)
編集盤
迫力ある声で知られるブルース・シンガー、ビッグ・メイベルの歌唱を収めた一枚。ジャズとブルースの境目にある、力強い歌の世界が楽しめます。
Sings for Only the Lonely
Frank Sinatra(フランク・シナトラ)
1958年 / Capitol
シナトラの孤独な夜をテーマにしたコンセプトアルバム。ネルソン・リドルの編曲とともに味わい深い一枚です。
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Harold Arlen ハロルド・アーレン(1905–1986)
ニューヨーク州バッファロー生まれ。本名はヘイマン・アーレック。ユダヤ系移民の家庭に生まれながら、アフリカ系アメリカ人のブルース・スピリチュアルの感性を深く吸収し、ポピュラー音楽に融合させた独自のスタイルを確立した。「Over the Rainbow」(映画『オズの魔法使い』・1939年アカデミー賞主題歌賞受賞)、「Stormy Weather」「Come Rain or Come Shine」など感情の機微を歌った名曲を次々と生み出し、20世紀アメリカ音楽の巨匠として名を残した。ガーシュウィン、コール・ポーターと並ぶ「グレート・アメリカン・ソングブック」の最重要作曲家のひとりであり、そのブルース色を帯びたメロディーは今なお多くのジャズミュージシャンを魅了している。