Jazz Standard — 1939
オール・ザ・シングス・ユー・アー
| 作詞 | Oscar Hammerstein II(オスカー・ハマースタイン二世) |
|---|---|
| 作曲 | Jerome Kern(ジェローム・カーン) |
| 制作年 | 1939年 |
| 初演 | ブロードウェイ・ミュージカル「Very Warm for May(ヴェリー・ウォーム・フォー・メイ)」(1939年) |
| キー | A♭長調(原曲) |
| 拍子 | 4/4拍子・36小節・AABA形式(変形) |
「オール・ザ・シングス・ユー・アー」は、1939年にブロードウェイで上演されたミュージカル「ヴェリー・ウォーム・フォー・メイ」のために、作曲家ジェローム・カーンと作詞家オスカー・ハマースタイン二世が共同制作した曲です。残念ながらミュージカル自体は短命に終わりましたが、この曲だけは時代を超えて生き続け、現在ではジャズの世界で最も広く演奏されるスタンダードのひとつとなっています。
この曲が演奏家や音楽家から特別視される最大の理由は、その革新的なコード進行にあります。全部で6つのキーを移り渡るという、当時としては驚くほど複雑な転調を含んでおり、チャーリー・パーカーをはじめとするビバップの演奏家たちが即興演奏の素材として愛用しました。演奏するのが難しい分、弾き込むほどに深みが増すこの曲は、ジャズミュージシャンにとって一種の「修行の場」とも言われています。メロディそのものは大らかで歌いやすく、歌詞も愛する人への純粋な賛美に満ちており、聴く側にとっては温かく包み込まれるような幸福感をもたらしてくれます。
歌の情景・意味
愛する人に向けて、その存在のすべてが自分にとって何を意味するかを語りかける歌です。「あなたは、春を待ちわびる私の心、夏の夜に輝く月明かり、秋の霜の中に咲く一輪の花」——そのように、四季の美しい情景にたとえながら、愛する人がどれほど特別な存在かを詩的に歌い上げます。やがて「あなたこそが、私が夢に描いていたすべてのもの」と結ばれるこの歌は、恋愛の最良の瞬間、相手の存在に全身で感謝し、幸福に満ちあふれる心を表しています。大げさではなく、静かに、しかし深く、相手への愛情を伝えるロマンティックな内容です。
※掲載している英語歌詞は原詩の著作権に配慮し、内容を要約・再構成したオリジナルの言い換えです。正確な原詩は楽譜または正規音源でご確認ください。
Verse A(Aセクション①)
Verse A(Aセクション②)
Bridge(Bブリッジ)
Verse A(最終Aセクション)
キー:A♭長調(原曲) 形式:AABA(36小節・変形)
この曲最大の特徴は、6つのキーを次々と渡り歩く大胆な転調です。一小節ごとに和音が動き、まるで旅をするように調が変わっていきます。演奏が難しい一方で、その豊かな色彩感こそがこの曲の魅力です。
A セクション①(1〜8小節)— F短調→A♭長調へ
▶ ポイント:Fm7(ファ短調)から始まり、B♭m7→E♭7→A♭maj7という「ツー・ファイブ・ワン」の動きでA♭長調に落ち着きます。「ツー・ファイブ・ワン」とはジャズで最もよく使われる和音の流れで、聴いていると自然に気持ちが解放されるような感覚があります。さらにD♭→G7→Cという転調でハ長調へ移行します。
A セクション②(9〜16小節)— C長調→E♭長調へ
▶ ポイント:今度はCm7から同じツー・ファイブ・ワンの動きでE♭長調へ。そしてまたD7→Gmaj7でト長調へと旅が続きます。まるで春から夏、秋へと移り変わるように、和音の色合いが次々と変化していくのを感じてみてください。
B セクション(ブリッジ、17〜24小節)— E長調経由でA♭へ戻る
▶ ポイント:ブリッジはト長調からホ長調(E major)まで下がっていきます。E長調はA♭長調から最も遠い調のひとつで、まるで旅の最深部に到達したような感覚があります。最後のC7♯11(少し不思議な響きの和音)がA♭への帰還を準備します。「♯11」は通常より半音高い音が加わった、夢のような浮遊感のある和音です。
A セクション③(最終、25〜36小節)— A♭長調への帰還
▶ ポイント:最初と同じFm7から始まり、今度はしっかりとA♭長調に落ち着きます。D♭m6(マイナー6和音)が登場し、帰宅前のほんの少しの名残惜しさを演出。最後はE♭7→A♭で温かく幕を閉じます。長い旅から我が家に戻ってきたような安堵感——それがこのエンディングです。
Jazz at Massey Hall
Charlie Parker / The Quintet(チャーリー・パーカー/ザ・クインテット)
1953年 / Debut
パーカー、ガレスピー、パウエル、ミンガス、ローチが一堂に会したトロント公演の記録。ビバップの巨人たちによる熱い演奏が残された歴史的ライブです。
The Art Pepper Quartet
Art Pepper(アート・ペッパー)
1956年 / Tampa
西海岸を代表するアルト奏者アート・ペッパーのカルテット作品。しなやかで歌うようなアルトの音色が存分に味わえます。
The Perfect Complete Collection
Charlie Parker(チャーリー・パーカー)
編集盤
パーカーのアルトサックスが、複雑なコード進行を軽やかに駆け抜ける名演の数々を収めたコレクションです。
名盤・名演のリンクはAmazonアソシエイト・リンクです。
Amazonのアソシエイトとして、ジャズ・スタンダード事典は適格販売により収入を得ています。
Jerome Kern ジェローム・カーン(1885–1945)
ニューヨーク生まれのアメリカを代表する作曲家で、ブロードウェイ・ミュージカルの基盤を築いた人物として音楽史に名を刻んでいます。ヨーロッパのオペレッタの様式とアメリカ的なポピュラー音楽を融合させ、歌詞と音楽が有機的に結びついた「書き下ろしミュージカル」の形を確立しました。1927年の「ショウ・ボート」は特に画期的な作品で、人種差別や社会問題を扱った内容と卓越した楽曲が高く評価されています。「煙が目にしみる」「オール・ザ・シングス・ユー・アー」など、今日もジャズのスタンダードとして生き続ける名曲を数多く残しました。60歳で他界しましたが、その音楽的遺産はアメリカ音楽の礎のひとつとなっています。